私がドイツ国籍を取得する理由

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現在、私はドイツ国籍取得のための手続きを進めています。

 

たまに、日本にいる人から「ドイツの人と結婚したから、国籍もドイツになったの?」と聞かれることがありますが、外国人と結婚して相手の国に住むからといって自動的に国籍が変わるわけではありません。ドイツに長く住んでいる日本人のほとんどは、永住権はあっても国籍は日本のまま生活しています。これまで私もそうでした。

 

ドイツは外国籍を持つ者にも大変多くの権利を与えている国で、日本国籍のままドイツで長年生活しても、それほどの不便はありません。選挙権がない、公務員など特定の職業に就けないという制約はありますが、日常生活レベルではドイツ人とほぼ同等の権利が保障されています。ドイツ国籍を取得すれば当然ながら100%の権利が得られることになりますが、日本は二重国籍を認めていないため(ドイツは条件により一部、二重国籍が可能です)、ドイツ国籍を取得することは日本国籍を放棄することを意味します。そのため、大部分の人は日本国籍を保持することを選択するか、「もしかしたら、いつかドイツ国籍を取るかもしれないけど、今のところはまだしない」と決断を保留にしているようです。

 

私も長い間、保留組でした。

ドイツに永住する以上、ドイツ国籍はあった方が便利ですが、そのかわりに日本国籍を返上しなければならないのは悩ましく、簡単に決断できることではありませんでした。ドイツに来てまだ日が浅い頃は、ドイツ語もよくできず、ドイツのこともそれほど知らないわけですから、「ドイツ人になる」という発想自体がありません。滞在が長くなり、こちらの生活にすっかり馴染んで来ると、国籍取得もちらりと考えるようになりましたが、急いで決めなければならない理由が特になかったので、「ゆっくり考えよう」と長い間、決断を先延ばしにして来ました。

 

ドイツ国籍を取得しようという気持ちがとうとう固まったのが数ヶ月前。

 

自分の中で決断してから、周囲にそれを話すべきかどうか、ちょっと迷いました。ドイツ人の友人や知り合いには普通に話せば良いことですが、在独の日本人の友人達や日本にいる家族に話すのはためらいます。ドイツ国籍を取得すること自体はプラスですが、日本国籍を失うのはマイナスであり、日本人はそのマイナスの方に反応するのではないかと思ったのです。特に在独日本人の多くにとって国籍はアイデンティティと深く結びついており、「国籍を変えるなんて!」とショックを受ける人もいるのではないかと恐れたのです。

国籍のことはわざわざ言わなければ他人にはわかりません。だから黙っていようかとも考えたのですが、開け広げな私の性格では無理でした。それで身近な人たちに「ドイツ国籍を取ることにした」と話してみたのですが、意外にネガティブな意見はありません(思ってもわざわざ言わないだけかもしれませんが)。むしろ、「そうなの?もっと詳しく聞かせて」という反応が多いのです。長く海外で生活している人たち、特に海外で家庭を持った人たちは誰しも一度は国籍について考えたことがあるでしょうから、自分が変更するしないは別としても、きっと関心のあるテーマなのだろうなと気づきました。そんなわけで、私のドイツ国籍取得のプロセスについて情報公開することにします。

 

今回はまず、「なぜドイツ国籍を取ろうと思ったのか」について書きます。

 

大きな理由は3つあります。

  •  選挙権を得て社会参加したいから
  •  老後の家族の負担を減らしたいから
  •  「過去」よりも「未来」にフォーカスしたいから

それぞれについて説明します。

 

  • 選挙権を得て、社会参加したいから  

私のドイツ生活も既に20年を超えました。こちらの生活にすっかり馴染み、ドイツにいることは私にとって「当たり前のこと」になっています。住んでいるのは持ち家です。夫と子供たちはドイツ人(娘は未成年のため、まだ二重国籍)。機会があれば別の国にも短期間、住んでみたいですが、基本的にはこれからもドイツで生きて行きます。

でも、外国人である私には選挙権がありません。自分と夫が生活し、子ども達がこれから長い年月を生きて行く社会にフルに参加する権利がないのです。

 

若い頃は、「選挙権なんてなくても、別にいいや」と思っていました。それほど政治に関心がありませんでしたし、ましてやドイツの政治のことなんて全然わからないのだから、選挙権などあってもしょうがないと。しかし、時は流れ、私もいいおばさんに。それなのに、いまだにドイツでは投票もできず部外者のまま。本当にこのままでいいの?死ぬまでこの状態って、なんだか悲しい。そう感じるようになりました。

世界は急激に変化しています。過去10年の間に、日本では東日本震災があり、欧州でも多くの重大な出来事や深刻な変化がありました。政治には興味ないなどと暢気に言っていられるほど、世の中は平和ではないのだなと感じる機会が増えています。ドイツも問題が山積みです。そんな中、子ども達は成長し、大人としての責任を果たすようになって行きます。しかし、母親の私はいつまでも一人前の大人になれず、半人前、、、、。これ、なんとかしたい!

 

もちろん、私には日本国籍があるので、日本の選挙の際には投票できます。

 

しかし、海外から日本社会に参加するということは、それはそれでまた悩ましいのです。今はインターネットがあるため、日本のニュースがほぼリアルタイムで読めますし、SNSその他を使って日本にいる人たちと日常的に意見交換をすることも可能になりました。昔と比べれば格段の進歩です。でも、ネット上の情報はあくまでネット上の情報。日本に住んでいない私には生活実感がない。住んでいないからわからないことが多いです

日本にいる人達は選挙で投票するとき、ニュースやSNSの情報だけでどの党に投票するかを決めたりはしないですよね。生活の中で感じたこと、体験したことから意見を形成して行くものだと思います。海外に住んでいてもちょくちょく日本に帰る人は日本の様子を肌で感じることができるかもしれませんが、実家が北海道の私は、遠くてそんなに簡単に帰国できません。帰っても滞在するのはせいぜい2週間。こんな状況で日本の選挙に参加していいんだろうか?と自問してしまいます。

 

また、長い間ドイツで生活している間に、私の価値観も随分と変わってしまいました。それは、ドイツ社会に溶け込むために必要なプロセスでしたが、その結果、日本のニュースを読んでいると違和感を覚えることが多くなりました。「一体なぜ?」「それは変では?」「どうしてこうしないの?」と感じ、モヤモヤとすることがしばしばあります。でも、そこで思ったことを発言すれば、日本にいる人達の多くには逆に驚かれ、理解されないだろうなあと思い、再びモヤモヤ、、、、。

日本に住んでいないから、生活実感がないから、その分、ネットの情報をよく読まなければ日本のことがわかりません。そして、読んでもなおかつ理解しがたいことが多い。投票するためには理解しなければならないのに。これは自分のやるべきことなんだろうか?住んでいるのはドイツなのに、参加するのは日本社会?日本のニュースばかり追っていると、ドイツのニュースを追う時間がなくなります。日本の方ばかり向いて、ドイツをしっかりと見て意見を形成し、実践して行く余裕がない。それはやはり変じゃないか?住んでいない日本のことを心配するよりも、自分が住んでいる社会に参加する方が自然で建設的ではないのだろうか。そんな思いがこの数年、どんどん強くなって行きました。

 

  • 老後の家族の負担を減らしたいから

外国暮らしの私の身分証明書はパスポートです。パスポートは10年ごとに更新しなければなりません。永住権を持っているので査証の更新申請は必要ないのですが、パスポートが新しくなった際には外国人局へ行って新しいパスポートに永住権のシールを貼ってもらう必要があります。

私はとても忘れっぽいです。年を取るにつれ、きっともっと忘れっぽくなるでしょう。パスポートの更新その他、大事な手続きを覚えていて自分でできるうちはいいですが、忘れたら大変。そして、もしかしたら将来、認知症にならないとも限りません。そうなったら自分で手続きをすることが不可能になりますが、夫は日本語があまりできないので、子ども達に助けてもらうしかない。でも、子ども達はそのとき近くに住んでいるでしょうか?また、母親のパスポートの期限など、いちいち覚えていてくれるでしょうか?つまり、私は有効な身分証明書のない不法滞在者になってしまうかもしれないのです

仮に家族が気づいてくれたとしても、私が日本国籍であることで余計な面倒をかけることになります。それは家族に申し訳ないし、そのような負担を家族にかけてまで日本国籍を持ち続けなければならない理由があるのか?と考えてみると、別にないのです。だったら、いつか周囲の世話にならなければならなくなる日のことを考えて、今から身の回りはできるだけスッキリとシンプルにしておきたいと思います。

 

  • 「過去」よりも「未来」にフォーカスしたいから

私はどちらかというと、過去についてよりも未来について考えるのが好きです。年を重ねて行くとだんだん過去の思い出に浸る時間が長くなるものらしいですが、今のところはまだ、自分でそんな感じはしません。これから何をしよう、何ができるだろう、と考えるのが大好き!

もちろん、過去の思い出も大切です。日本に生まれ、成人するまで日本で過ごした中で蓄積した体験、見た景色、日本の家族、友達、その他一緒に時を過ごした人達。それらはみな、自分という人間を形作ってくれた大事なもの・人です。忘れるつもりはありません。

でも、思い出を守ることばかりにフォーカスしたくないんです。私にとって一番大事なのは「今」。そして、これからやって来る数々の「今」。日本人として生まれ育った思い出にしがみつくために日本国籍を保持し、それによってこれからドイツ社会で新たな展開をするチャンスを失いたくありません。今後もドイツで生きて行くことがわかっている以上、能動的に自分の未来を作って行きたいです。

それに、国籍がなくなったからといって思い出まで消滅するわけではありませんし、日本人としての要素が私の中から消えることもないです。これまでと同じように一時帰国して親や兄弟に会えますし、友人・知人らとは相変わらず主にネットを通して交流し続けることができます。ですから、心の葛藤は特にないんですよね。

 

日本国籍を失う実際的なデメリットについてはよく調べ、検討しました。でも、それほど大きなデメリットがあるとは思えませんでした。それについては改めて別記事で書きます。

 

以上が私のドイツ国籍を取得する主な理由です(細かい理由は他にもありますが)。言うまでもないことですが、これは私個人の場合であり、海外に永住する他の日本人の考えはわかりません。国籍にはそれぞれの思いがあり、何が正しくて何が間違っているというものはありません。他の人の思いについて疑問視したり批判するつもりは私にはまったくなく、そうするべきではないと考えています。ですから、私の決断も個人のものとして頂けたらありがたく思います。

 

国籍取得のプロセスについても近々、書く予定です。