フリーランス翻訳者が専門性を持つことの重要性 

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秋になりました。

寒くなって来たので野外の誘惑が少なくなって、仕事がはかどる季節です!

 

翻訳の仕事をしつつ、専門分野の勉強もがんばらなきゃ。

今日は専門分野を持つことがフリーランス翻訳者にとってなぜ大事なのかについて、私の思うことをまとめてみます。

 

フリーランスで翻訳の仕事をしている人は、国内外問わず、たくさんいますね。翻訳を本業として家計を担当している人もいれば、副業フリーランス翻訳者、アルバイトとして不定期に翻訳をする人もいて、仕事の状況は様々なので、一括りにフリーランス翻訳者として語るのは難しいのですが、組織に所属せずに翻訳の仕事をしている人には主に次の2つのタイプがいるのではないでしょうか。

 

A 専門分野を特に持たず、幅広く仕事をする人

B 特定の専門分野を持ち、主にその分野で仕事をする人

 

Aの人に専門知識がないということではありません。いろいろな仕事をしているうちに、得意分野というものが出来てくるものですし、分野にこだわらずに仕事をすることで様々な背景知識を得ることができるでしょう。

言いたいのは、仕事をしていく上での戦略として、「なんでもやります」路線で行くのか、自分の専門はこれですと打ち出して、ある程度限定的にやって行くのかということです。

置かれた状況やその人の性格によるので、どういう風にやっていくかはそれぞれが考えて決めることですが、私は今では「フリーランス翻訳者は、なるべく早い時期に専門性を磨いた方がいい」と思っています。そして、「特に、女性フリーランサーは専門分野を固めることでリスクを減らすことができる」と思います。

 

こう言いつつも、私は長らくAタイプの翻訳者でした。途中からB路線でやりたいと思うようになり、特定分野の勉強を始めました。そして、今も勉強を継続中です。

 

私が長いことA路線だったのは、こんな理由からです。

 

  1. 文学部出身だった (理系知識がないだけでなく、経済学の知識もありませんでした。英文ビジネスレターや時事英語の勉強は大学時代に独学でやりましたが、それは一般的な知識であって、専門と呼べるものではありませんでした)
  2. 仕事を始めて数年のうちに、英語からドイツ語に転向した (大学を卒業して1年3ヶ月後にドイツに移住しました。最初は英語の仕事をしていたけれど、ドイツにおける需要の点から、まもなくドイツ語の翻訳を中心にやるようになりました。そのため、まずはドイツ語を習得するので精一杯でした)
  3. アナログ時代には、翻訳者が専門性を身につけるためのインフラが整っていなかった (ドイツ語の翻訳に関しては、今でも整っていません)

3について、もう少し詳しく説明します。日本では翻訳の仕事において英語の需要が最も多く、また、翻訳者の数も英日翻訳者が圧倒的に多いです。そのため、英語の翻訳者はそれぞれ自分の分野を持ち、主にその範囲で仕事をすることが多いと思います。分野別に分業した方が翻訳物の品質が高まり、効率的ですから当然ですね。英語の翻訳に関しては、各分野の専門知識を得るためのスクールやセミナーなどがたくさんあります。専門辞書や参考書もたくさん出版されています。

 

でも、その他の言語に関しては、状況がまったく違います。特定分野に特化したドイツ語の翻訳講座はほとんどありません。仮にあっても、地方や海外に住んでいると通うことができません。ましてや、ネットのない時代にはeラーニングなどは存在しませんでした。私が仕事を始めた頃は、ドイツ国内でも日本語の翻訳技術を学べる高等教育機関はごく限られていおり、私は通える場所に住んでいませんでした。

ネットで調べ物ができなかった時代には、自分で専門書を買って勉強するしかなかったのですが、Amazonなどもなかった頃、日本語の専門書を日本から入手するのはすごく大変でした。日本国内に住んでいれば最寄りの図書館を利用することもできたでしょうが、ドイツでは日本の専門書を置いてある図書館はごく限られた場所だけです。(ケルン日本文化会館の図書室には大変お世話になりました)

日独・独日の専門辞書も当時はほぼ皆無で、いまだにすごく少ないです。

 

このように、インフラないないづくしだったので、「仕事をしながら学ぶ」以外になかったというのが私の状況でした。ドイツ語の翻訳者の数は少ないので、依頼する側も案件の内容ごとにそれに合った翻訳者を見つけるのが困難です。それで結果として、ありとあらゆる案件に取り組むことになり、その都度調べて少しづつ背景知識を蓄積していくことになりました。ありとあらゆる種類の文書を訳して来たけれど、ではあなたの専門分野は?と言われると返事に困る。そんな働き方でした。

 

言い訳はさておき、専門性を持つことは重要です。その理由は、

  1. 仕事の質を維持することができる (ネット時代の今は知らない分野のことでも調べればわかりますが、まったく知らないことを調べるより、一定の背景知識がある方が調べ物がずっと楽です。内容を誤解するリスクも格段に下がります)
  2. 単価がいい (一般的な文書よりも専門性の高い文書の翻訳の方が、当然ながら単価が高いです。できる人の少ない分野であればあるほど、単価が高くなります)
  3. 分野の違う他の翻訳者と互いに仕事を紹介しあえる (一般的な文書しか翻訳できないと同業者間で仕事の奪い合いになりますが、専門を持つと、自分の専門ではない仕事を他の翻訳者に紹介する代わりに、自分の専門の案件を回してもらうということができます)
  4. やりたくない分野の仕事を断れる (専門分野を持ったからといって、それ以外の案件を引き受けてはいけないわけではないですが、条件が悪い・内容に興味を持てないなどの理由でやりたくないものを頼まれたとき、「専門外なので」と言って断りやすいです)
  5. つけこまれるリスクが下がる (「なんでもやらせてください!」という態度だと、どうしても相手に都合の良い条件を呑まされがちです)

そして、女性フリーランサーの場合、専門性を持つことには「身を守る」というメリットもあるんです。

 

女性が一人で商売をしていると、男性が仕事のオファーに見せかけて近寄って来るということが、どうしてもあります。特に駆け出しの頃は、経験を売りにすることはまだできないので、ポテンシャルを売ることしかありません。「やる気がある」「若いのに見どころがある」と思ってもらえれば良いですが、そうとは限りません。

「安く使えるから」

これが一番多いですが、その他にも、

若くて可愛いから

って、やっぱりあるんですよ。自分が若いころはよくわかりませんでしたが、私のような年になると、若い人はやっぱり魅力的だとわかるんです。エネルギーに満ちていて、一緒にいると気持ちが明るくなるものです。でも、「若い人は元気でいいね。一緒に仕事をすると楽しいよ」だけだったらいいけれど、女性の場合、やっぱりそれだけでは済まないケースが少なくないんですよね、、、。具体的に書かずとも、想像できますよね。

フリーランサーの場合は、何かまずい事態になったら一人で戦わなければならないので、リスクはその分高いでしょう。仕事の幅を広げるためにはネットワーキングが必要ですが、一人で活動していると、変な人に絡まれるリスクはやっぱり少なからずあります。

「なんでもやらせてください!」は若い女性の場合、危険が伴います。早く何らかの専門性を身につけて、仕事を選べる状態に持って行くことが身を守ることにつながると思うんです。

 

では、おばさんだったら男性に言い寄られることは少ないから、専門性がなくても大丈夫なのでしょうか?

いえ、それがそうじゃないんですね。若い女性が「可愛いから」という理由で仕事を得ることがあるということは、言い換えれば、年を取ったらもう「可愛いから」では仕事は貰えないということです。ですから、どちらにしても専門性はないよりあった方がいいです。

 

誤解しないで欲しいのは、専門分野を持つということは、それ以外の分野の仕事をするべきではないという意味ではないです。余裕があれば専門を周辺分野に広げて行くこともできますし、全然関係ない分野でもできそうならチャレンジしてもいいですし。別に自分の守備範囲を狭めるということではないんです。

それから、翻訳がメインの仕事ではなく、たとえば本業はライターで、仕事の一環として翻訳もするという場合などは、また違うかもしれません。ここで書いたのは翻訳を本業とする場合です。

 

そんなわけで、私も専門分野の勉強、これからもがんばります。今から翻訳者になることを考えている方は、専門分野について、是非よく考えてみてくださいね。